なぜアンカースクリューが必要なのか
目次
なぜアンカースクリューが必要なのか
論文エビデンスをもとに、患者様にわかりやすくご説明します。
先日アンカースクリューについて専門的なブログを書きましたが、肝心の「なぜ必要なのか」についてご説明できていませんでした。今回はアンカースクリューの必要性について、最新の研究エビデンスをもとにわかりやすくご紹介します。
アンカースクリューには様々な種類があり、歯の移動方法も多岐にわたります。20年前にはあまり普及していませんでしたが、10年ほど前から多くの矯正歯科医院で取り入れられるようになりました。
アンカースクリューがなかった頃の矯正治療
アンカースクリューがない時代は、歯を相互作用でコントロールするしかありませんでした。たとえば前歯を後方に移動させようとすると、その反作用で奥歯が前方に引っ張られてしまいます。
前歯を大きく引っ込めたい場合でも奥歯がある程度前に来てしまうため、口元の突出感、いわゆるEラインを十分に改善できないケースもありました。

昔使われていた補助装置
奥歯を動かさないようにするための工夫は昔からありました。代表的なものをご紹介します。
- ヘッドギア:頭や首を固定源にして奥歯を支える装置。寝るときなどに装着が必要で、患者様の協力が不可欠でした。
- ナンスのホールディングアーチ:口蓋、つまり上あごの天井部分を固定源にする装置。
- トーイン、ティップバックベンド:ワイヤーを曲げて大臼歯を傾ける方法。
- 2段階法:まず犬歯だけを後方に移動し、その後4本の前歯を後方に移動する方法。
これらの方法も一定の効果はありますが、アンカースクリューに比べると効果が低く、また装置を使っていただく時間が少なければ効果がなくなってしまいます。[1,2]
アンカースクリューとは?
アンカースクリューとは、顎骨にわずか数ミリの小さなチタン製のネジを埋め込み、「絶対に動かない固定源(アンカレッジ)」をつくる装置です。これにより抜歯ケースでは、奥歯をしっかり固定した状態で前歯だけを大きく後方に移動することが可能になります。

また非抜歯ケースでは、歯を抜かずに前歯のがたつきを改善しようとすると、重なっていた歯を並べるスペースを確保するために前歯が前方へ押し出され、口元の突出感や口が閉じにくいといった問題が生じるケースがありました。
アンカースクリューを活用することで、奥歯を後方へ移動させてスペースを作ることが可能になりました。これにより、前歯を前に出すことなく自然な位置に並べられるようになり、口元の突出や閉じにくさを起こさずに歯並びを改善できるケースが増えています。


アンカースクリューを使う主なメリット
- 患者様の装着への協力が不要。ヘッドギアのように自分でつけ外しする必要がありません。
- より確実に、より大きく歯を動かせます。
- 口元の改善をより確実に実現しやすくなります。
- マウスピース矯正との併用も可能な医院が増えています。
論文エビデンス1:アンカースクリューの有無と前歯の後方移動量
「アンカースクリューがあるかないか」で、前歯をどれだけ後方に引っ込められるかが変わることは、多くの研究で示されています。
アンカースクリューを使うと奥歯の動きが約2mm抑えられる
系統的レビュー・メタ解析(複数の研究を統合した高品質なエビデンス)
ミニスクリュー、つまりアンカースクリューを使用した場合、奥歯の前方移動(アンカレッジロス)が平均約2mm少なくなることが報告されています。その結果として、前歯の後方移動量はアンカースクリュー使用群で統計的に有意に大きくなります。[1,2,3,4]
成人の出っ歯症例での比較研究
ミニインプラント、つまりアンカースクリューを使用した群では前歯の後退量が平均8.17mmだったのに対し、ヘッドギアを使用した従来群では6.73mmにとどまりました。アンカースクリュー使用でより大きな後退が得られることが示されています。[7]
アンカースクリューあり・なしの比較
| 条件 | 奥歯の前方移動 | 前歯の後退量 | 文献 |
|---|---|---|---|
| アンカースクリュー使用 | 少ない(約1.5〜2.5mm抑制) | より大きい(有意差あり) | [1,2,3,4,5] |
| ヘッドギア・TPAなど従来法 | 多い(アンカレッジロス大) | 相対的に少ない | [2,7,3,5] |
エンマスリトラクション(一括牽引)との組み合わせ
アンカースクリューは「エンマスリトラクション」、つまり前歯6本を一括で後方に引く方法と組み合わせると特に効果的です。
- 奥歯のアンカレッジ保持が良い。[6,8,3,5]
- 前歯の後退量がやや大きくなる。[6,3,4]
- 口唇の突出感や鼻唇角、つまり鼻と口元の角度など、顔の印象を決める軟組織のプロフィールがより改善する。[6,9,10,8]
- 治療期間が短くなる傾向がある。[6,8,3,5]
年齢・骨の状態との関係
同じアンカースクリューを使っても、効果は個人差があります。成人では切歯の傾斜と根の後退量がより大きく、若い方ではやや少ない傾向があります。[11]
前歯の後退量は「アンカースクリューの有無」だけでなく、年齢・顎の形・力の方向などの複合的な要因によっても変わるため、個々の症例に合わせた計画が重要です。[12,9,11,5]
エビデンスのまとめ1
アンカースクリューを用いると奥歯のアンカレッジロスが平均約2mm減少し、その分だけ前歯をより後方に移動しやすくなります。多数の研究で「スクリューあり=より大きな前歯後退量」という方向の関連が示されており、特にエンマスリトラクションではこの差が明瞭です。[1,2,3,4]
論文エビデンス2:一段階法vs二段階法とアンカーロスの関係
抜歯ケースで前歯を後方に移動する方法には「一段階法(エンマス)」と「二段階法」があります。それぞれとアンカースクリューの組み合わせによって、治療結果がどう変わるかも研究で詳しく調べられています。
- 一段階法(エンマス):前歯6本をまとめて一括で後方に引く方法。
- 二段階法:まず犬歯だけを後ろに動かし、その後4本の前歯を後ろに動かす方法。
従来の補助装置だけを使った場合の比較
成人女性の症例研究(最大限の固定が必要なケース)
従来の補助装置を使った場合、エンマス法と二段階法で前歯の後退量・奥歯のアンカーロス(近心移動量)はほぼ同等という結果が出ています。また「前歯が4mm後退するごとに奥歯が約1mm前方に移動する」という一定の比率、約4:1が両方の方法で共通して見られました。[13]
ヘッドギア+TPA(トランスパラタルアーチ)を用いたランダム化比較試験(RCT)
成長期のClass I/IIの患者を対象にしたRCTでも、平均大臼歯近心移動量は一段階法(エンマス)の方がやや少ないものの有意差はなく、両群とも約4mm以上のアンカーロス(大臼歯近心移動)が生じていました。[14]
従来の補助装置での一段階法vs二段階法:3次元でのアンカーロス(大臼歯近心移動量)比較
| 方法 | アンカーロス | 文献 |
|---|---|---|
| 一段階法 | 矢状・垂直方向で二段階法より有意に大きい | [15] |
| 二段階法 | アンカーロス(大臼歯近心移動量)はやや少ないが、ゼロではない | [15] |
アンカースクリューを加えるとどう変わる?
系統的レビュー・メタ解析(一段階+ミニスクリュー vs 二段階+従来補助装置)
位置段階法にミニスクリュー、つまりアンカースクリューを組み合わせると、二段階法+従来補助装置と比べて、奥歯のアンカーロスを約2.5〜3.0mm大幅に減らしながら、前歯の後退量を0.4〜4mm程度増やせると報告されています。[3,8,16,6]なお一部のメタ解析では、アンカーロスの差は大きくても切歯の後退量の差は統計的に小さい、つまり臨床的には僅差とするものもあります。[3,16]
総合まとめ:「方法」より「アンカー(ミニスクリュー)」が重要
- 一段階法と二段階法だけを比べると、前歯の後退量とアンカーロスの関係はほぼ同程度で、大きな差はありません。[13,14,15,17]
- 差を生むのは「方法の違い」よりも「アンカースクリューの併用」です。
- アンカースクリューを使ったエンマスリトラクションでは、同等以上の前歯後退を得ながら、アンカーロスを明確に減らすことができます。場合によってはアンカーゲイン、つまり奥歯が少し後ろに下がることもあります。[3,8,16,6]
エビデンスのまとめ2
前歯を後方に引く「方法(一段階vs二段階)」の違いよりも、「アンカースクリューを使うかどうか」のほうが治療結果への影響が大きいことが研究で示されています。[3,13,14]
それでも「なるべく避けたい」と思う方へ
アンカースクリューの使用には小さな手術(植立)が必要で、それなりの費用もかかります。「できれば避けたい」と思われるのは当然のことです。
しかし、矯正治療は多くの場合、人生で1回きりの治療です。絶対ではありませんが、やり直しは非常に難しく、費用も時間も再びかかってしまいます。より確実に歯をコントロールできる手段があるなら、積極的に検討する価値があります。
アンカースクリューが特に必要になりやすいケースは以下の通りです。
- 口元を大きく引っ込めたい場合。出っ歯・口元の突出感が強いケース。
- 奥歯を後方に移動して、口元を前に出すことなくでこぼこの前歯を並べたい場合。
- 歯のがたつきが強く、前歯をきれいに配列するための十分なスペースが必要な場合。
「顎間ゴム」や「IPR(歯を少し削ってスペースを作る方法)」でうまくいくケースもありますが、これらにはデメリットや限界もあります。安易にアンカースクリューを避けることは、より良い仕上がりのためにならない場合があります。
当院でのアンカースクリューの取り組み
当院では、患者様のケースに応じて以下のシステムを使用しています。
- 上顎(うわあご):「i-station(アイステーション)」
口蓋の正中部、つまり上あごの中央に2本のアンカースクリューを植立するシステムで、上顎全体の歯を精密にコントロールします。 - 下顎(したあご):「インデュース」
大臼歯の遠心移動には大臼歯の頬側後方に、近心移動には小臼歯の遠心部に植立し、下顎の歯の動きをサポートします。
2026年4月現在、当院のアンカースクリュー植立実績は1,000症例を超えています。豊富な経験に基づく安全・確実な施術を行っておりますので、どうぞ安心してお任せください。
まとめ
アンカースクリューは、複数の高品質な研究、つまり系統的レビュー・メタ解析によって、従来の補助装置と比べて明らかに高い効果が示されています。[1,2,3,4]
- 奥歯のアンカレッジロスを平均約2mm抑制できる。[1,4]
- 前歯をより大きく後方に移動できる。[1,2,6,7]
- 口元のプロフィール、Eラインなどの改善効果が高い。[6,9]
- 患者様ご自身の協力、つまり装着時間に依存しない、確実なコントロールが可能。[5]
「自分の場合は必要なの?」「どんな処置をするの?」「費用や痛みは?」など、気になることがあればお気軽にご相談ください。お一人おひとりに合った最適な治療計画をご提案いたします。
参照文献
- Antoszewska-Smith J, Sarul M, Łyczek J, Konopka T, Kawala B. Effectiveness of orthodontic miniscrew implants in anchorage reinforcement during en-masse retraction: a systematic review and meta-analysis. Am J Orthod Dentofacial Orthop. 2017;151(3):440-455.
- Yassir YA, Nabbat SA, McIntyre GT, Bearn DR. Which anchorage device is the best during retraction of anterior teeth? An overview of systematic reviews. Korean J Orthod. 2022;52(3):220-235.
- Rizk MZ, Mohammed H, Ismael O, Bearn DR. Effectiveness of en masse versus two-step retraction: a systematic review and meta-analysis. Prog Orthod. 2018;18(1):41.
- Liu Y, Yang ZJ, Zhou J, et al. Comparison of anchorage efficiency of orthodontic mini-implant and conventional anchorage reinforcement in patients requiring maximum orthodontic anchorage: a systematic review and meta-analysis. J Evid Based Dent Pract. 2020;20(2):101401.
- Barthélemi S, Desoutter A, Souaré F, Cuisinier F. Effectiveness of anchorage with temporary anchorage devices during anterior maxillary tooth retraction: a randomized clinical trial. Korean J Orthod. 2019;49(5):279-285.
- Khlef HN, Hajeer MY, Ajaj MA, Heshmeh O. Evaluation of treatment outcomes of en masse retraction with temporary skeletal anchorage devices in comparison with two-step retraction with conventional anchorage in patients with dentoalveolar protrusion: a systematic review and meta-analysis. Contemp Clin Dent. 2018;9:513-523.
- Yao CC, Lai EH, Chang JZ, Chen I, Chen YJ. Comparison of treatment outcomes between skeletal anchorage and extraoral anchorage in adults with maxillary dentoalveolar protrusion. Am J Orthod Dentofacial Orthop. 2008;134(5):615-624.
- Chakraborty A, Mishra S, Nanda SB. Clinical outcome of enmasse retraction as compared to two-step retraction in bimaxillary protrusion patients: a systematic review. Saudi Dent J. 2025;37:48.
- Ritchie G, McGregor C. Temporary anchorage devices and the forces and effects on the dentition: a systematic review. J Orthod. 2022.
- Alharbi F, Almuzian M, Bearn D. Anchorage effectiveness of orthodontic miniscrews compared to headgear and transpalatal arches: a systematic review and meta-analysis. Acta Odontol Scand. 2019;77(2):88-98.
- Ruan M, Chen G, Shen G, et al. Comparison of orthodontic tooth movement between adults and adolescents: a systematic review. Angle Orthod. 2021.
- Shetty S, Soonthodu S. Comparison of the extent of root resorption in maxillary anterior teeth in patients treated with mini-implants vs conventional anchorage. J Orthod Sci. 2019.
- Heo W, Nahm DS. En-masse retraction and two-step retraction of maxillary anterior teeth in adult Class I women. Angle Orthod. 2005;75(6):973-978.
- Xu TM, Zhang X, Oh HS, Boyd RL, Korn EL, Baumrind S. Randomized clinical trial comparing control of maxillary anchorage with 2 retraction techniques. Am J Orthod Dentofacial Orthop. 2010;138(5):544.e1-9.
- Shetty N, et al. Comparison of three-dimensional anchorage loss in en-masse and two-step retraction of upper anterior teeth. J Clin Orthod. 2020.
- Mohammed H, Rizk MZ, Ismael O, Bearn DR. Effectiveness of en masse versus two-step retraction: University of Dundee systematic review. Prog Orthod. 2018.
- Schneider P Jr, et al. Comparison of anterior retraction and anchorage control between en masse and two-step retraction techniques. Am J Orthod Dentofacial Orthop. 2019.
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の医療・治療の代替となるものではありません。具体的なご相談は担当医にお申し付けください。