矯正治療で知覚過敏は起こる?原因と当院の知覚過敏対策

「矯正治療を始めてから、冷たいものがしみるようになった」
矯正治療中、このようなご相談を受けることがあります。
矯正治療と知覚過敏には、どのような関係があるのでしょうか?
矯正治療中に知覚過敏が起こることがあります
矯正治療では、歯に力を加えて少しずつ歯を移動させていきます。その過程では、歯を支えている歯槽骨や歯肉などの周囲組織にも変化が生じます。
当院では治療計画を立てる際に、歯根が歯槽骨の中でどのような位置にあるのか、いわゆる「ボーンハウジング」も考慮しています。
しかし、どれだけ慎重に治療計画を立てても、歯の移動に伴って歯槽骨や歯肉の形態が変化し、歯肉退縮などによって歯根面が口腔内に露出すると、知覚過敏が起こる可能性があります。
また、叢生(歯のがたがた)を改善すると、歯と歯の間に「ブラックトライアングル」と呼ばれるすき間が生じることがあります。
ブラックトライアングルは、主に歯間乳頭の形態や高さの変化によって生じるもので、知覚過敏の直接的な原因ではありません。ただし、矯正治療に伴う歯肉や歯周組織の変化を考えるうえでは、重要なポイントの一つです。
矯正治療と知覚過敏にはどのような関係があるのでしょうか?
実は、「矯正治療を行うと知覚過敏が起こる」という因果関係が、現在の研究で完全に証明されているわけではありません。
一方で、矯正治療を受けた患者さんに知覚過敏が認められることは、研究から報告されています。
矯正治療終了後の知覚過敏に関する横断研究(2023年)
矯正治療を終了した232名を対象に知覚過敏を調査した結果、自己申告による知覚過敏は67%に認められ、刺激方法によって39〜91%の患者さんに知覚過敏が認められました。特に下顎前歯や小臼歯で多く認められ、また、歯肉退縮と知覚過敏との関連も報告されています。さらに、知覚過敏がある患者さんでは、口腔内の症状が生活の質にも影響していました。[1]
ただし、この研究は矯正治療後の患者さんを対象とした横断研究です。そのため、「矯正治療によって知覚過敏が発生した」とまで因果関係を証明することはできません。
つまり、現時点では、
「矯正治療をすると必ず知覚過敏になる」わけではない。
しかし、
「矯正治療を受けた患者さんには知覚過敏が認められることがあり、歯肉退縮などとの関連も報告されている」
というのが、現在の研究から考えられる適切な表現です。
矯正治療では「歯の感覚」そのものが変化することもあります
知覚過敏とは少し異なりますが、矯正治療によって歯の神経(歯髄)の感覚反応が変化することも報告されています。
システマティックレビュー・メタ解析(2023年)
矯正治療中の歯では、電気歯髄診断などによる歯髄の感覚反応が治療前と比較して変化することが示されています。[2]
つまり、歯を移動させる矯正力そのものが、歯の内部の感覚反応に影響する可能性があります。
ただし、ここで注意したいのは、「歯髄の感覚反応の変化」と「象牙質知覚過敏症」は同じものではないということです。
患者さんが「冷たいものがしみる」と感じる知覚過敏には、歯肉退縮などによる象牙質の露出が重要な要因となります。
そのため、矯正治療と知覚過敏の関係を考える際には、歯の移動だけでなく、歯肉や歯槽骨など周囲組織の変化も含めて考える必要があります。
矯正装置を外した後に一時的にしみることもあります
固定式の矯正装置では、治療が終了してブラケットを外す際にも、一時的に歯がしみることがあります。
矯正装置撤去前後の知覚を調べた前向き臨床研究
装置を撤去した直後に、特に前歯で温度刺激に対する知覚が強くなりました。しかし、その痛みは7日以内に治療前の状態まで回復しています。[3]
このことからも、矯正治療に伴う「しみる」という症状には、歯の移動だけではなく、矯正装置の撤去など治療に付随する処置も関係することが分かります。
マウスピース矯正のIPRでも一時的な知覚過敏が起こることがあります
近年増えているマウスピース型矯正装置では、歯を並べるためのスペースを作る目的で「IPR(Interproximal Enamel Reduction)」という処置を行うことがあります。
ランダム化比較試験(2026年)
マウスピース矯正中にIPRを行った患者45名を対象に、知覚過敏の変化が調べられました。その結果、IPR直後には知覚過敏が増加しましたが、その後は時間の経過とともに減少しました。また、ダイオードレーザーを使用した群では、知覚過敏の改善がより早く、3か月後まで効果が維持されました。[4]
マウスピース矯正におけるIPRと知覚過敏の関係を直接調べた比較的新しい研究であり、矯正治療における知覚過敏対策を考えるうえで興味深い報告です。
矯正治療では、知覚過敏への対策も大切です
このように、現在の研究から「矯正治療が知覚過敏の直接的な原因である」と断定することはできません。
しかし、
- 矯正治療後には一定の割合で知覚過敏が認められること
- 歯肉退縮と知覚過敏との関連が報告されていること
- 矯正装置の撤去後に一時的な知覚過敏が生じること
- マウスピース矯正に伴うIPRでも一時的な知覚過敏が生じること
- 矯正治療中には歯髄の感覚反応自体も変化する可能性があること
などを考えると、矯正治療をできるだけ快適に受けていただくために、知覚過敏への対策をあらかじめ考えておくことは大切だと考えています。
当院で行っている知覚過敏対策
当院では、患者様にできるだけ快適に矯正治療を受けていただくため、日常的なケアから、必要に応じた専門的な処置まで、知覚過敏対策を行っています。
毎日のケアには「メルサージュ ヒスケア(松風社製)」

当院では、日常的な知覚過敏対策として松風の「メルサージュ ヒスケア」をおすすめしています。ヒスケアには、刺激の伝達を抑える硝酸カリウムと、象牙細管を封鎖する乳酸アルミニウムが配合されており、知覚過敏に対して2つの方向からアプローチします。また、フッ素1,450ppmも配合されているため、毎日の歯磨きによる虫歯予防にも活用できます。
一方、知覚過敏が強い場合や歯肉退縮によって歯根面が露出している場合には、「メルサージュ ヒスケア ジェル」を使用することがあります。ヒスケア ジェルは研磨剤を含まないジェルタイプで、知覚過敏対策成分を歯面にとどめやすいことが特徴です。そのため、通常の歯磨きによる刺激をできるだけ抑えながら、知覚過敏が気になる部分を重点的にケアすることができます。
症状に応じて使用する知覚過敏抑制材
当院では、知覚過敏の症状が認められた場合に使用できる材料として、
- シールドフォース
- G-ガード
- M Sコート
などをご用意しています。
これらは同じ「知覚過敏対策」のための材料でも、それぞれ作用や使用方法が異なります。そのため、歯面の状態や症状、処置部位などに応じて使い分けています。
2026年8月から新しい知覚過敏抑制材を導入しました

さらに当院では、2026年8月より新たに、
- ジーシー ヒステクト
- MSコート Hysブロックジェル
を導入しました。
どちらも知覚過敏を抑制するための材料ですが、従来から使用してきた材料とは異なる特徴があります。
「G-ガード」と「ジーシー ヒステクト」の違い
従来から使用しているGC社の「G-ガード」は、歯面に塗布した後に光照射することで硬化する歯面コーティング型の知覚過敏抑制材料です。
歯面清掃後に塗布して光照射するという2ステップで使用でき、エアーブローが不要であることも特徴です。また、ナノフィラーテクノロジーによる層を形成し、耐摩耗性にも配慮されています。
一方、2026年に新しく発売されたGC社の「ジーシー ヒステクト」は、ジェルタイプの知覚過敏抑制材料です。
硝酸カリウム5%、フッ化ナトリウム0.25%(1130ppmF)などを配合し、最短30秒のこすり塗り、またはマウストレーを使用して処置することができます。メーカー資料では、歯肉退縮、酸蝕症、くさび状欠損、クラック、ホワイトニング後など、さまざまな知覚過敏への使用が想定されています。
つまり、非常に大まかに整理すると、
- G-ガード:光硬化によって歯面をコーティングして刺激を遮断するタイプ
- ジーシー ヒステクト:硝酸カリウムやフッ化物を含むジェルを塗布して知覚過敏を抑制するタイプ
という違いがあります。
どちらが「優れている」というより、患者様の症状や歯面の状態、処置の目的に応じて選択することが重要だと考えています。
「MSコート」と「MSコート Hysブロックジェル」の違い
もう一つ、当院で従来から使用しているのが、サンメディカル社の「MSコート」です。
MSコートシリーズは、歯質中のカルシウムと反応して保護被膜を形成し、象牙細管を封鎖することで知覚過敏を抑制する材料です。従来のMSコート ONEでは、ナノサイズMSポリマーとシュウ酸が歯質のカルシウムと反応し、保護被膜を形成する仕組みが採用されています。
新しく導入した「MSコート Hysブロックジェル」は、このMSコートシリーズの知覚過敏抑制効果を引き継ぎながら、ジェルタイプに変更され、さらにカリウム塩とフッ化ナトリウムが配合された新しいタイプです。
特に大きな特徴は、シリンジから直接患部にピンポイントで塗布でき、基本的にはこすり塗りを必要としないことです。
ジェルが歯面にとどまりやすく、MSポリマー、シュウ酸、フッ化物、カリウム塩を含む被膜によって象牙細管を封鎖します。また、フッ化ナトリウムを含むことで、従来のMSコートシリーズと比較して被膜の耐酸性を高めることも特徴です。
つまり、
- 従来のMSコート:MSポリマー+シュウ酸を中心とした知覚過敏抑制
- MSコート Hysブロックジェル:MSコートの基本的な作用に加えて、ジェル化、カリウム塩、フッ化ナトリウムによる新しい機能を追加
という違いがあります。
また、MSコート Hysブロックジェルは、痛みが強く清掃が難しい場合などにはこすり塗りで使用することもできます。
それぞれの材料を症状に合わせて使い分けます
知覚過敏は、患者様によって原因も症状も異なります。
歯肉退縮によって歯根面が露出している場合、矯正治療に伴って一時的にしみている場合、IPRや矯正装置の撤去後に症状が出ている場合など、それぞれで適した対応は異なります。
そのため当院では、単に「知覚過敏だからこの薬剤」という一律の対応ではなく、
患者様の歯の状態や症状を確認したうえで、それぞれの材料の特性を活かして使い分けること
を大切にしています。
矯正治療は、歯をきれいに並べるだけではありません。
治療期間中に生じる「痛い」「しみる」といった不快感にもできるだけ配慮し、患者様が安心して治療を続けられることも、より良い矯正治療の一部だと考えています。
これからも新しい材料や知見を取り入れながら、患者様にできるだけ快適に矯正治療を受けていただけるよう、知覚過敏対策にも取り組んでいきたいと考えています。
参考文献
- Dalmolin AC, et al. Prevalence of dentin hypersensitivity after orthodontic treatment: A cross-sectional study. Am J Orthod Dentofacial Orthop. 2023;164(3):431-440.
- Golež A, Ovsenik M, Cankar K. The effect of orthodontic tooth movement on the sensitivity of dental pulp: A systematic review and meta-analysis. Heliyon. 2023;9(4):e14621.
- Scribante A, et al. Orthodontic debonding and tooth sensitivity of anterior and posterior teeth: A prospective clinical trial.
- d’Apuzzo F, et al. Effect of diode laser versus sodium fluoride on dentin hypersensitivity after interproximal enamel reduction during clear aligner treatment: A randomized controlled clinical trial. J World Fed Orthod. 2026.
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の医療・治療の代替となるものではありません。具体的なご相談は担当医にお申し付けください。