矯正装置の接着剤が「付箋」に似ている理由
歯科用の接着剤と聞くと、「しっかりと付いて、絶対に外れない方が良い」と思われるかもしれません。しかし、矯正歯科治療においては、少し事情が異なります。
皆さんがメモで使う「付箋」を想像してみてください。付箋は、壁やノートに簡単に貼れて、不要になれば壁や紙を傷つけることなくキレイに剥がせますよね。矯正装置の接着剤も、この付箋と考え方が似ています。治療中はしっかりと歯に付いていてほしいのですが、歯並びが綺麗になった後には、大切な歯を一切傷つけることなく、キレイに除去できなければならないのです。
「しっかり接着」と「キレイに剥がせる」を両立させる難しさ
矯正装置には、食事や歯磨き、ワイヤー交換の際に、想像以上に強い力がかかります。接着剤は、その力に負けないだけの強度が必要です。つまり、矯正用の接着剤には、治療中は、強い力がかかっても外れない、治療後は、歯を傷めず簡単に外せるという、相反する性質が求められるのです。この両立は非常に難しく、最適な接着剤を見つけるためには多くの試行錯誤が必要でした。
歯を傷つけないことを最優先。当院のこだわりと選択
当院では、患者さんの歯の状態に合わせて最適な接着を実現するため、多くの種類の接着剤を用意しています。装置を装着するための接着剤として3種類、奥歯につけるバンドを装着する接着剤として3種類、また歯の表面処理する薬剤は6種類あります。歯の種類や詰め物・被せ物の有無などから、それぞれの患者さんにとって適切な組み合わせを、医師が判断して使用しています。
その上で、私たちが最も大切にしているのは「歯を傷つけないこと」です。そのため、当院ではあえて「やや外れやすい」接着剤を選んで使用することがあります。もし装置が外れてしまい、付け直しでご不便をおかけすることがあったとしても、それは歯を傷つけるリスクを冒すよりはずっと良い、と考えているからです。この他にも、虫歯予防のためにフッ素を放出する接着剤や、除去する際に取り残しがないよう、目立たない奥歯には青く着色された接着剤を使うなど、細やかな配慮をしています。
進化する材料に柔軟に対応する体制
歯科材料は日々進化しており、これからもっと理想に近い接着剤が出てくる可能性も十分にあります。当院では、あえて歯科材料の在庫を最小限に抑え、常に最新・最良の材料を積極的に取り入れていける体制を整えています。