歯科治療で患者さんを診断する際に重要な資料の中の一つにレントゲン写真があります。かつて歯並びの改善は見た目を改善するためだけに行われていましたのでレントゲン写真を必要としませんでした。それが時代とともに外見だけではなく口に関連する機能やさらには全身的な関わりまで考慮に入れるようになり、歯とその周囲の組織の関連を調べるためにレントゲン写真が必要となったのです。
Albert H.Kecham(1870〜1935)は歯並びの治療にレントゲン写真を取り入れた先駆者の一人です。アメリカ歯科矯正学会では最も名誉ある賞の名前を「ケッチャム賞」と命名し、その功績を称えています。その後歯並びの治療のためのレントゲン撮影法を発表したのがHolly Broadbend(1884〜1977)です。耳を棒のようなもので固定して決められた距離から、また同じ方向から撮影を行うことで毎回同じ条件でレントゲンを撮ることができます。このレントゲン写真を治療の前後で撮影して重ね合わせると歯の動きを評価することができます。また正常咬合(歯がしっかりと噛み合っている状態)の方の規格レントゲン写真を計測し、平均値を出すことで、理想的な歯の角度やあごの大きさを導き出すこともできます。患者さんのレントゲンの計測値と正常咬合の平均値からのずれを評価することで、正確な診断を行うことができるのです。
1931年に発表されたこの側面頭部X線規格写真の計測法(セファロメーター)の発案により、矯正歯科治療における診断は画期的な進歩を遂げたと言われています。
近年ではCTの普及によりレントゲンがこれまで2次元の情報しか得られなかったのに対し、3次元でより詳しい情報を得られるようになり、この三次元情報を利用した診断が行われるようになってきています。まだ決まった規格はありませんが、これからCTを使っての診断が重要になってくるのは間違いないと言われています。
今回はちょっとマニアックな内容になってしまいましたが、耳を棒で固定してレントゲンを撮る機会がありましたら、この話を思い出してみてくださいね。