お口の周りに関係する「くせ」が咬み合わせに影響することめずらしくありません。今回はその中でも開口やすきっ歯、出っ歯の原因となる「舌癖」(ぜつへき)についてご説明します。
上下の前歯の間に舌の先を挿入したままでいる癖を挿舌癖、または弄舌癖といいます。そして、食べ物を飲み込む際に舌を前歯の間に挿入したままとなっていることを異常嚥下癖といいます。通常舌の先は上あごの前歯の少し後方の歯茎に軽く触れている状態なのですが、舌癖があると前歯が舌によって前方や上下に押されるため、前歯が上下に開いたり、前方に傾斜したり、また歯と歯の間に隙間ができてしまったりします。
この舌癖は一説として幼児型嚥下から成熟型嚥下への移行がうまくいかないことが原因で起こると言われています。新生児は歯がないので舌をうまく使って食べ物を飲み込む幼児型嚥下という方法で食べ物を飲み込みますが、生後6ヶ月を過ぎた頃から歯がはえてきて、成熟型嚥下癖と呼ばれる舌を前に出さない飲み込み方に移行していきます。この移行がうまくいかず、幼児型嚥下が長期的に残るといわゆる舌癖となり、開咬や出っ歯、すきっ歯の原因となるのです。
この舌癖の除去をするためには心理的方法と物理的方法があります。心理的方法とは患者さんに癖の存在を知っていただき無意識のものを意識化します。意識化することによって癖を除去できることがあります。しかしながら舌癖は意識化することが最も難しい癖の一つです。必要に応じて治療には物理的方法を行う場合があります。物理的な方法とは舌に当たる突起物のようなものを歯の裏側に付けて、歯に舌が当たらないように習慣化するというものです。裏側矯正では舌側に装置が着くので自然とこの効果が期待できます。したがって舌癖が原因となっている不正咬合(歯並びが悪いこと)には裏側の装置で歯並びを改善することが効果的なのです。