咀嚼とは、食べ物を細かく咬み砕くことです。咀嚼を行う意義は4つあると言われています。
- 食べ物を飲み込みやすくする
- 味覚を刺激して唾液や消化液の分泌を促進する
- 口の周囲の血流を増加させて健康を維持したり、発育を促進したりする
- 食べ物を粉砕することによる心理的な満足感を満たす
咀嚼はこのような重要な役割を担っているので、不正咬合(咬み合わせが悪いこと)の場合、咀嚼能力が低く、また下あごを効率良く動かすことができないため、食べ物をよく咬み砕かないまま飲み込んだり、軟らかい食べ物をたべることが多くなったりする傾向にあります。歯列矯正は、咬み合わせを整えることにより、見た目だけではなく咀嚼能力を向上することができるのです。
咀嚼能力を検査し評価することを「咀嚼能力検査」といい、1923年のCristiansenの研究から始まり今日まで様々な報告がされています。直接的検査法では実際に食べ物を咬んで砕かれた試料の状態を数値化して評価します。例えばお米やピーナッツを何回か咬んで、篩(ふるい)に通してどのくらい小さくなったかを評価する方法やグミを咬んで溶け出て減った糖分を計測する方法、異なる色のガムを咬んで色の混ざり具合を見る方法などがあります。間接的検査法では筋肉の活動や下あごの運動の分析、また咬む圧力や面積を計測する方法があります。咀嚼能力を診断することは治療の質の評価につながるので、どのような治療法が最も患者さんのためになるかなどを比較検討することが可能です。次回のブログでは矯正治療における抜歯と非抜歯、どちらがいいのかをテーマに咀嚼能力を絡めて書きたいと思います。
最後になりましたが消化について咀嚼能力がどれほど関わっているかは実のところはっきりとは分かっていません。一説によると無い歯があっても消化に影響しないという報告があり、また一方でその状態が長期に渡ると胃の粘膜に大きな影響を及ぼすという報告もあります。しかしながら食べ物を細かく咬み砕くとこができる能力はあってもけっして邪魔になるようなことはありませんので、消化に影響するかどうかは別としてしっかりと改善しておきたいものです。