歯科では20種類以上の金属を使用すると言われており、歯科治療に金属はなくてはならない材料です。しかしながら近年金属アレルギーをお持ちの方が増加傾向にあり、ドクターはもちろんのこと、治療を受けられる患者さんも治療の際には注意が必要です。歯科治療で用いられる金属が原因となるアレルギーはⅣ型アレルギー(細胞免疫型・遅延型)と呼ばれ、原因金属(アレルゲン)に触れて数時間から数日後に触れた場所や全身に発赤や腫脹、湿疹などを生じます。金属アレルギーがあるかどうか、またその種類を知るためには皮膚科でのパッチテストと呼ばれる検査が必要となります。
金属アレルギーを起こす可能性がある歯科金属の種類は文献によると10年以上前のデータになりますが、陽性率の高い順にニッケル(Ni)、コバルト(Co)、水銀(Hg)、クロム(Cr)、スズ(Sn)、鉛(Pd)、銅(Cu)となっており、水銀以外は現在も歯科で頻繁に使用されています。ここでアレルギーを起こす「可能性」と書かせていただいたのは皮膚症状と歯科金属との因果関係がはっきりとは証明されていないためです。実は口腔内からアレルゲンの完全除去を行っても皮膚症状が改善しないケースが多く存在するので必ずしも金属を使用しての歯科治療が金属アレルギーを引き起こすとは言い切れないのです。しかしながらパッチテストで陽性となったアレルゲンが口の中に常にあるという状態を放置することの問題と、金属修復物の除去後に明らかに皮膚症状が改善するケースが存在することから、アレルゲンを含む修復物での歯科治療は原則行うべきではありません。
矯正歯科治療では特にニッケルアレルギーへの注意が必要です。ニッケル(Ni)はパッチテストで最も陽性率が高く、また金属材料に広く用いられています。歯を動かすために用いるニッケルチタンワイヤー(形状記憶合金)をはじめ、ワイヤーを通すために歯に装着される装置の金メッキやステンレススチールワイヤーなどにもニッケルは含まれます。したがってニッケルにアレルギーをお持ちの患者さんの治療でワイヤーを用いる場合、ブラケットにはプラスチックか陶材製のもの、またワイヤーではチタンモリブテン合金を選択します。このようにニッケルを含まない材料を選択することで、ニッケルアレルギーでもワイヤーを使用して治療をすることは可能です。ただし、裏側の装置に関しては現時点ではニッケルフリーの装置がありませんので、ワイヤーを用いる場合には表側からの治療となります。そのため装置が目立たない治療をご希望される場合にはマウスピース型の装置が第一選択となります。マウスピース矯正では金属を全く使用しませんし、マウスピースの材料やシステムの進歩により、以前では治療が難しかった歯並びで適用できるようになっています。金属アレルギーをお持ちで、歯並びの改善をご希望される場合には、まずはマウスピース型装置を検討されるといいかもしれません。
以上のように歯科治療ではお口の中で様々な金属を用います。金属製品でかぶれた経験や、治りにくい皮膚疾患が体のどこかにある場合にはアレルギー専門皮膚科で一度アレルギーの検査を受けられてはいかがでしょうか。