矯正治療を考えている方にとって、歯がどのように動くのか、そして治療の進行具合について知ることは非常に重要です。今回は、裏側矯正に焦点を当て、歯がどのように動くのか、そして1ヶ月ごとの移動量について詳しく解説します。
目次
裏側矯正とは?
歯の裏側に矯正装置を装着し、歯並びを整える矯正治療です。装置が目立ちにくく、周りの人に気づかれずに矯正治療を行うことができるため、装置の見た目を気にすることがなく治療中のストレスも少なくて済みます。裏側矯正は特に職業上見た目を気にする方に人気があります。
裏側矯正の仕組み
裏側矯正はブラケットとワイヤーを使用して歯を動かします。ブラケットを歯の裏側に取りつけてワイヤーを通すことで歯に持続的な力を加えていきます。ワイヤーは元の位置に戻ろうとする力や、そのしなりを利用して歯をに引き寄せるようにして動かします。ワイヤーの形・素材・太さ・位置などを月に一度調整しながら少しずつ歯を理想的な位置に導いていきます。
歯が動く仕組み
歯ぐきの中に「歯槽骨(しそうこつ)」という歯を支える骨があり、歯槽骨と歯の根っこの間には「歯根膜(しこんまく)」と呼ばれる弾力性のある薄い膜が存在します。この歯根膜は歯にかかる衝撃をやわらげるクッションのような役割を持っていて、この歯根膜が矯正治療で歯が動く仕組みに重要なはたらきをします。
歯根膜の役割
矯正治療で歯が動くメカニズムは、歯根膜の特性に関係しています。矯正装置を装着して歯に力がかかると、その力が歯根膜に伝わり歯が動く方向の歯根膜は縮み、反対側は引っ張られて歯根膜が引き伸ばされます。歯根膜は「一定の厚みを保とうとする」という性質があるため縮んだ側の歯根膜は元の厚さを取り戻そうとして骨を溶かす細胞を作りだし、動く方向側の骨を溶かします。これを「骨吸収」といい、骨が溶けた分歯が移動します。反対側の伸びて引っ張られた歯根膜は元の厚みに戻ろうとして、骨にスペースができます。骨のスペースに新しい骨が作り出されます。これを「骨形成」といいます。このようにして骨吸収と骨形成を繰り返しながら歯根膜と共に歯が少しずつ移動していきます。
矯正で歯が動く速度
矯正治療では骨の中で歯が移動していきますが、一般的には1ヶ月で0.2mm~1mmほど動くと言われています。歯が動く速度は、歯を動かす方向や歯根の状態、骨の状態によって違います。基礎代謝は人によってさまざまですが、この骨の中での歯の移動は骨の代謝によって起こるため、個人差があり治療期間には差が生じます。その他にも噛む力が強い方は歯の移動速度が遅く、噛む力が弱い方は早いという傾向もあります。
全ての歯を一気に動かすことは不可能
歯に加える力を強くすればするほど早く歯が移動するわけではありません。矯正治療では段階を踏んで順番に歯を動かしていかなくてはなりません。例えば前歯を動かすと反作用で奥歯が動くため、バランスを考えながら治療を進めていきます。また力を加えすぎると歯根吸収や失活(歯の神経が壊死すること)のリスクが高まります。歯を効果的に移動させるためには適切な力の管理が重要です。
定期的な調整の重要性
矯正治療ではワイヤー交換やブラケットの位置調整が定期的に行われます。これにより歯の移動をコントロールし、治療の進行に合わせて歯の位置を微調整していくことが大変重要です。
一ヶ月でどのくらい歯を動かすのか?
これまでも述べてきましたが、矯正治療では強い力をかけてどんどん動かすということはしません。強い力をかけすぎてしまうと歯の不適切な傾斜や、歯根吸収、失活のリスクが大きくなるからです。せっかく治療したかみ合わせや歯の状態が悪くなってしまわないためには慎重かつ計画的に歯を動かす必要があります。一ヶ月で歯を動かす移動距離は平均的に0.5mm~1mm程度となります。
矯正治療で歯が動きやすい方には特徴があります。
・顎の骨の成長がまだ途中の子供
・顔の骨格が面長な方
・歯並びを悪くする悪癖がない方(舌癖・頬杖など)
・新陳代謝が活発な方
特に注意が必要な癖は「舌癖」や「頬杖」「歯の食いしばり」で、日常的に弱い力が加わり続けることで歯列にも悪影響が出ます。せっかく矯正治療を始めたのにこれらの癖を続けてしまうと矯正治療の期間が長引いたり、矯正治療の失敗につながるためしっかりと悪癖をなおす必要があります。
裏側矯正が向いている方
歯並びを綺麗にしたいけど矯正していることを他人に知られたくない方
マウスピース矯正も矯正装置が透明なマウスピースのためほとんど目立ちませんが、1日に20~22時間程度マウスピースを着用しなければなりません。自己管理が難しい方はマウスピース矯正が向いていません。このような方は裏側矯正であれば、矯正装置が固定されているので取りはずしなどの自己管理をする必要もありません。
スポーツや楽器の演奏をする方
歯の裏側に装置がついているため、転倒などの事故やスポーツの際の接触によって矯正装置でお口の中を怪我するリスクは低くなります。また楽器を演奏する際も表側矯正に比べると矯正装置によって演奏を妨げることは少ないと言われています。
出っ歯を治したい方
出っ歯は上の歯が下の歯よりも前に出ている状態で、出っ歯を改善するのに裏側矯正は適しています。歯は矯正装置がついている方向に引っ張られる傾向にあるので、裏側矯正は前に出ている歯を後ろに引っ張ることができ、横から見た口元が美しく仕上がります。
まとめ
ワイヤー矯正やインビザラインをはじめとしたどんな矯正方法であっても、歯根膜が一定の厚さを保つための働きを利用して、少しずつ確実に歯を理想的な位置へと導くのが矯正治療の仕組みです。
裏側矯正は特に矯正装置が目立たない方法を重視する方に人気のある矯正治療です。ご自身が裏側矯正が向いているかどうかは、カウンセリングなどを利用して歯科医師にしっかりと相談してから決めるようにしてください。