裏側矯正が技術的に難しいことは以前のブログで書かせて頂きました。今回は上の歯を裏側から下の歯を表側から治療するハーフリンガルについてです。ハーフリンガルの利点は、舌の違和感が少ないこと、下が表側なので治療費が上下裏側と比べるとリーズナブルということが上げられます。治療の難易度も上下裏側に比べると比較的簡単だと言われています。確かに下の歯を裏側から治療すると前歯が内側に倒れ易かったり、歯が小さいのでワイヤーの交換や調整が難しかったりということがありますが実は上下裏側の方が簡単ということもあるのです。
矯正歯科治療は歯を動かす際、いかに動かしたい歯だけを動かして、その反作用(他の歯が治療目標の位置からずれていまうこと)を軽減させるかということが重要になります。例えば抜歯をしてその隙間を使って前歯を後ろに下げる場合には、前歯が内側に傾いたり、抜歯をした歯の両隣の歯が歯を抜いた隙間に向かって傾いたりといった様々な副作用が出てきてしまいます。これらの副作用をあらかじめ予測してワイヤーを調整し、また装置作成の段階であらかじめ副作用を打ち消すような力がかかるよう準備をすることが必要なのです。
今回ご紹介したいのは歯並びの治療で起こってしまう副作用の一つに、歯列弓(歯並びが描く曲線)の幅の変化があります。歯並びの治療では奥歯と前歯を互いに引っ張りあって隙間を閉じることが多いので、裏側から治療をすると歯列弓の幅が小さくなり(両側の奥歯が近づく方向に動き)、表側から矯正治療をすると歯列弓の幅が大きくなる(両奥歯が離れる方向に動く)傾向にあります。したがって、上下とも表や上下とも裏からの治療だと歯列弓の変化が起こってしまっても、上下の奥歯が同じ方向に動くので咬み合わせを作りやすいのですが、ハーフリンガルで治療をすると、上の奥歯は内側(舌側)に、下の奥歯が外側(頬側)に動いてくるので何の対策もなしに治療を進めてしまうと奥歯の咬み合わせが上下反対になってしまいます。これがハーフリンガル治療独特の難しさなのです。
当院ではこれまでの治療経験に基づきこれらの副作用を予測し、装置の選定や設計の段階で副作用が起きないように治療を進めています。反作用を抑える治療を進めることで、しっかりとした噛み合わせ、治療後の歯並びの安定が得られ、そして治療期間を短縮することができます。